#2 地域の舞台芸術環境づくりに取り組む

公開開始日:2016年07月20日

創造・育成・鑑賞・交流を紡いで

1992年の創立時、私たちは次のようなマニフェストを掲げて活動を始めました。「岡山という文化風土のなかに蒔(ま)かれた小さな種子を、たいせつに育ててゆきたい。促成栽培ではなく、手作り栽培でゆっくりと。より豊かな舞台芸術を実らせるための百年浪漫――」。それから四半世紀を経たいま、その活動はまだ途上にありますが、地域における舞台芸術の環境づくりというミッションを創造・育成・鑑賞・交流の事業として具現化してきました。
一つひとつの事業について説明するには紙数に限りがありますので、エポックな事象を記してみます。創立の翌年に発足した<岡山河畔劇場>では、それまで岡山では鑑賞機会の少なかった現代演劇やコンテンポラリーダンスを継続的に開催し、わが国を代表する劇作家・演出家・振付家の優れた作品を数多く上演してきました。この鑑賞事業は単なる招聘(へい)公演という通念を超えて、創造・育成・交流という大きな果実をもたらせてくれました。
優れた舞台芸術作品を鑑賞した人々から「地方でも本格的な演劇やダンスを学びたい」というニーズが芽生え、岡山市との共同主催で<岡山舞台芸術ゼミナール>が2001年から開講しました。第一線で活躍する演劇・ダンス・伝統芸能・舞台技術の専門家を講師に迎えた人材育成には、10年間で46講座延べ約700余名の参加者が県内外から集いました。そして、このゼミナールでの専門家と参加者との出会いからプロデュース公演や共同製作公演など、さまざまな創造事業が生まれ現在に至っています。

犬島の魅力を生かした維新派公演『風景画』犬島の魅力を生かした維新派公演『風景画』

協働と包摂の未来へ

私たちが地域における舞台芸術の環境づくりで重視してきたのはパートナーシップです。例えば、2002年から今日まで岡山市犬島で取り組んできた演劇やダンスのプロデュース公演では、島の人々をはじめ行政、公益財団、文化団体などとの協働がなければ実現できませんでした。離島のおかれた厳しい現実のなかで、いかにして舞台芸術作品を成立させることができるか。それはすぐれて課題の共有と協働の実践という公共的な取り組みにあったといえます。

6年目を迎えた「学校でひらく舞台芸術教室」6年目を迎えた「学校でひらく舞台芸術教室」


地域社会が直面するさまざまな課題に対して、アートNPOは、行政や企業とは異なる手法とアプローチによって、新しい解決の方途を見い出すことができると考えています。私たちは10年余り前から、福祉・介護施設と連携して障がいのある方々や高齢者の方々との身体表現ワークショップを開いたり、小学・中学・高校の教育現場に演劇やダンスのアーティストを派遣して、創造体験学習の授業を行ってきました。社会的にハンディーのある人々や受動的なスタンスに陥りがちな子どもたちが、演劇やダンスに出会うことによって、自己肯定感や創造的な感性を獲得していく姿に幾度となく立ち会ってきました。
こうした舞台芸術に内包された社会包摂機能は、これからの地域社会にとってますます重要度を増してゆくことでしょう。社会・経済的な弱者対策、全世代にわたる再チャレンジ、移住者との関係構築、文化芸術施設によるまちづくり…など、課題のなかに岡山市の新しいビジョンが秘められています。

25年の活動記録を編み今秋刊行する『相貌』25年の活動記録を編み今秋刊行する『相貌』

大森 誠一(おおもり せいいち)

特定非営利活動法人アートファーム理事長・プロデューサー。
1950年岡山市生まれ。フリーランスの編集者兼コピーライターの傍ら、92年「岡山河畔劇場」、94年「劇ぷれす」、同年「劇空間フォーラム」、95年「劇塾」、2001年「岡山舞台芸術ゼミナール」、03年演劇ユニット「水蜜塔」など自主事業の創設・企画・運営を手がけるほか、岡山県・岡山市・倉敷市・高松市など自治体主催による舞台芸術活性化事業やアーツフェスティバルをプロデュース。個人として、サンポートホール高松チーフプロデューサー、三原市芸術文化センター事業企画責任者、犬島海の劇場プログラムディレクターなどを歴任。団体として、01年第2回岡山芸術文化賞準グランプリ、02年第3回福武文化振興財団文化奨励賞、14年第41回岡山市文化奨励賞・芸術部門などを受賞。
大森さん

 



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